
眼鏡、外すか外さないか論争
人生で3度目の結婚式参列。
新調した青いワンピースに身を包み、
お気に入りの美容室で早朝からヘアセットをしてもらう。
鏡の中の自分を「よし」と確認して、
そのまま新幹線に飛び乗った。
雨予報を裏切るような快晴。忙しくも心地よい、特別な一日の始まりだった。
ところで、今回のような、少し格好をつけなければならない時、私の中で決まって巻き起こる問題がある。
それは
"眼鏡、外すか外さないか論争"だ。
とりあえずネットの海を彷徨ってみる。
「結婚式 参列 女性 眼鏡」。
しかし、ヒットするのはマナーの解説や、無難なスタイルの提案ばかり。私の心を「これだ!」と射抜くような、イケてる参考写真はなかなか出てこない。
結局、私は眼鏡をかけたまま式に参列することに決めた。
正直に言えば、会場の入り口まで迷っていた。けれど、コンタクトレンズ特有のゴロゴロとした違和感に耐えながら、不慣れなヒールで歩く自信がなかった。何より、今の私を一番自分らしく見せてくれるのは、東京での生活に馴染んだ茶色いフレームの丸眼鏡だったから。
今回の舞台は、私の地元、愛知県。
そこには、かつての私がいた。学生時代の私はいつだってコンタクトレンズで過ごし、裸眼に近い姿で笑い、語り合っていた。友人たちにとって眼鏡の私は、東京で音楽活動を始めてからの、知らない私の姿なのだ。
10年以上ぶりに会う面々も多い。
「変わったな」と思われたいような、でも「変わらないね」と言われたいような。そわそわとした落ち着かない気持ちを、眼鏡のフレームで必死に押さえつけているような感覚だった。
会場に着き、受付を通る。
見覚えのある横顔が並ぶ。かつて部活で泥だらけになったあの子も、授業中にこっそり手紙を回し合ったあの子も、みんなそれぞれの「大人」を纏ってそこにいた。
「……あ、久しぶり! 〇〇じゃん!」
声をかけてくれた友人の一人が、私の顔をじっと見た。
私は内心、身構えた。脳内で論争が再燃したその瞬間、彼女はパッと表情を明るくした。
「相変わらずだね、全然変わってない!」
眼鏡について何か言われるわけでも、東京での暮らしを深掘りされるわけでもなかった。ただ、一瞬で十数年の空白を埋めるような、屈託のない笑顔がそこにあった。
そこから先は、眼鏡をかけているかどうかなんて、どうでもよくなるほどの思い出話の嵐だった。
地元で過ごした日々と同じように笑い、時に涙ぐみながら新郎新婦の門出を祝う。今の私がシンガーソングライターとして歌っていることも、東京でこの丸眼鏡を選んで暮らしていることも、すべてをひっくるめて「私」としてそこに居させてくれる空気。
結局、周りは自分が思うほど私の眼鏡に固執してはいなかったのだ。
私が「外すか、外さないか」で数週間悩み、検索履歴を埋め尽くしていたことなんて、この温かな時間の中ではちっぽけなノイズに過ぎなかった。
披露宴の最後、幸せそうな二人を囲んで集合写真を撮った。
カメラマンの合図に合わせて、私は馴染み深い茶色のフレームを指で少しだけ直した。
出来上がった写真には、青いワンピースを着て少し背伸びをした「今の私」と、昔と変わらない顔で爆笑している「あの頃の私」が、丸いレンズ越しに仲良く共存していた。
最高に楽しい、一日だった。
論争、無事終結。
次はどの眼鏡で、どんな歌を歌いに行こうか。
気持ちは結婚式当日のように晴れ渡っている。

